Disk Review

20周年目に刻み込む、新たな誓いの足跡。軽やかな心持ちで、けれども風にさらわれない、雨に流されることのない、しっかりと踏みしめた美しい輪郭を誇る1歩。進化、とは、すなわち原点を磨き上げていくことであり、核をして存在するものをより豊かな形へと育んでいくこと――そんなことを、ゆずが今ここで放つ2作のEP「謳おう」「4LOVE」からあらためて感じている。

第一弾の「謳おう」は、全編アコースティック・サウンドで構成された、ゆずならではの作品集。アコースティックでの表現のさらなる可能性を探求し、具現化した1枚となっている。その幕開けを飾るのは、タイトルの“謳おう”が歌詞の中に織り込まれている「カナリア」。ハネた、それでいて繊密なアコースティック・ギターのサウンドをベースに、空間のある音作りが成されたナンバー。高らかにではなく噛み締めるように希望を謳うメッセージが、切々と胸に響く。楽器を多用しないからこそメロディの華やかさが逆に際立っている「タッタ」は、シンプルでキャッチーな言葉がテンポ良く投げかけられていくポップ・チューン。ゆずが“オンリーワン”であることは、こういう楽曲にはっきりと表れている。そして「天国」は、ふたりの息づかいや鼓動が伝わってくる一発録り。自由と平和への願いを、歌とギターの音の力だけで強くしなやかに伝えてくれる。ラスト4曲目で意表を突いてくるのが、「保土ヶ谷バイパス」。敬体で綴られた手紙のような詞が日本のフォークの黎明期を想起させ、懐かしいような、それでいて新鮮なインパクトを感じさせる、滋味ある楽曲だ。

そして第二弾となる「4LOVE」は、“4つの愛”をコンセプトとした広い意味でのラブソング集。トライバルなビートと自然の中にある音を効果音として活かしたサウンドが地球的なスケールを生んでいる「愛こそ」では、夢と希望を託せる存在の愛を歌う。Bメロのヴォーカル・パートの組み方は、それぞれの声の特性をコントラストをつけて生かすことで言葉に立体感をもたらせている。愛を少しだけアイロニカルに描いているのは、「日常」。メロディを転調し、かなりヒネリの効いたナンバーだが、キラキラした音の粒子がドリーミーさも醸し出す。ウォール・オブ・サウンドを導入部で鳴らす「ビーチ」は、渚系のチャーミングな楽曲。ちょっぴりくすぐったさもある、大人のピュアな愛の歌。失ってしまった愛ある日々への思いを、あえて軽快で陽気なカントリー風味のサウンドに乗せたのは、「ロンリーカントリーボーイ」。アソビ心で相乗効果を高める、ゆずのセンスがいかんなく発揮された1曲だ。

2作品で計8曲の新曲。フルアルバムにもできる曲数だが、EPの形態で2週連続リリースのスタイルをとったのは、鮮度を重視したためなのかもしれない。“今のゆずの旬”、を届ける意味と意義には、スピード感も大切。そこにはきっと、20周年を振り返り懐かしむだけのメモリアル・イヤーでは終わらせたくない、新たに実らせたゆずの実をこれからも存分に味わってほしい、というふたりの強く深い思いがあるのではないだろうか。

竹内 美保