ゆずスペシャルインタビュー

― そして「素顔のままで」。これをアルバム曲として収めてしまう、ゆずの度量の広さを感じます。曲の構成が秀逸です。

北川
なにか…前向きではありつつも成し得ない虚しさや悲しさ、儚い感じをラブソングでできないかなと思いまして。それが初めて出来たという感じはしています。あと個人的なことなんですけど、人生で書いたBメロの中で、この曲の2番のBメロが最高の出来ですね(笑)。サビとかではいっぱいあるんだけど、このBメロは17年やってきた中でもすごい気に入ってますね。

― 構成していく上で意識したことはなんですか?

北川
ゆずの良さといいますか。僕は今回の『新世界』に取り組むときに、改めて自分の原点を見つめた上で新しいことに挑戦したいなと思って。その原点は、やっぱり“2人で歌う”ことだなと。元々ギタリストでもないですし、路上時代から歌が好きでやってきたので。2人で歌うことの面白さをこの曲の中でいくつかやってるんですね。特にBメロに関しては…Bメロの話ばっかしちゃってますけど(笑)、造りとしてよくできたなと。

― レコーディングはいかがでしたか?

岩沢
北川の中にこの曲が完全に入り込んでいまして。レコーディングでは彼の思う歌い方を目指しました。「違う、そこは違う!」と鬼軍曹のように言われながら(笑)。そのニュアンスを出すのが非常に難しい曲でしたね。それくらいこだわりがあったんですね。

― 歌詞のなかに「くじら」というワードが出ていますよね。ラブソングでこの表現は非常に引っかかったのと、アルバムのジャケットワークに出ているくじらの飛行船とも意味があるのかなと感じました。

北川
アートワークについては、アルバムを象徴するなにかシンボルのようなものはないかとみんなでディスカッションしていたときに、ふと“白いくじらと”いうアイディアが出てきて。それはなにか神のようであったり、人々の願いを託すものであったり、夢や希望の象徴だったり。そのくじらをアートワークで出せたらいいんじゃないかなと思って今の形になりました。そして歌詞ですが、「くじらが空飛ぶ夢を見てた」というフレーズは、実は仮歌で歌ってたんですよ。ちょうどそのアートワークの話をしていたときに書いていて。一度、それを書き直して別の歌詞にしたんです。だけど、いやちょっと待てよ、と。この言葉を残して、そのから新たな言葉を紡ぎ出せないかなと思って、またまた作り直しました。なので、ジャケットの構成が呼び込んでくれた歌詞と、そこから生まれたファンタジー、そんな幻想的なものを表現できたと思っています。

― “くじら”は非常にシンボリックだと思いました。

北川
くじらは、なんだろう…。サイズも大きいし、神秘的であって不思議な生命体ですよね。曲でも歌ってるんですが、そのくじらを空に見つけて、自分の中で悲しみを何処かに連れ去ってくれる、儚いけど希望があるみたいな。

― 続いて「幸せの定義」。これは“ゆずリミックス”のような、誰かが客観的にゆずの曲をリミックスしたらこうなるんだろうなという印象です。

岩沢
弾き語りの状態で完成しているといえば完成していたんですけど、さらになんか面白いことはできないかなという気持ちで、電球くんという知り合いのトラックメーカーに話してみたら、いい球が返ってきたんです。「この曲で遊んでいいよ」と投げかけたら、彼も楽しんでアレンジしてくれました。まさにゆずリミックスですね。

― そのやり方もアルバムのテーマに沿っています。

北川
そうですね。楽器で鳴らす音ももちろんあるんですけど、今はそれを鍵盤の中にサンプリングして楽器のように扱うやり方がたくさんあって。今の要素をベーシックなものに取り込めた、まさに「新世界してるな」と思いますね。

― そして「Ultra Lover Soul」。曲名から非常にキャッチーな、昭和歌謡テイストですね。

北川
これ曲については、実は元ネタがあって。昔、寺岡呼人さんのスタジオで作業をしていたとき、音源をいっぱい作ってたんですよ。そこで作っていた曲がこの曲の原型になっていて。『新世界』の制作も中盤に差し掛かったときに「なんかもうひとつ面白いことやりたいな」と思って、過去の曲からなんかないかなと思って見つけたんです。呼人さんは既に別の形でこの曲の原型を世に出しているんですけど、これはこのアルバムにどうしても合うと思って、呼人さんに話してOKをもらいました。

― 1曲の中に色々なテイストが詰まっていて、サザンとB’zとユニコーンがくっついたらこうなるだろうと。歌謡ポップスの歴史が集約されている気がします。

北川
ただ歌謡的な曲を洋風にはしていないですよね。この曲のアレンジをWiennersという、アグレッシブなロックバンドのボーカル・玉屋2060%くんお願いしたんです。どんな化学反応を起こすんだろうと思ったら、素晴らしいアレンジが返ってきました。かなりミスマッチな要素がこの曲の中には詰まっているんですが、それがすごく絶妙な感じにまとまってるなと。

― 歌詞に登場する「伊勢佐木町」はキラーワードですね。ゆずファンであれば「きました!」という感じです(笑)。

北川
久しぶりに出しましたね。僕らの原点なんですが、原点をこんな形で使っていいのか迷いました(笑)。ただ、伊勢佐木町の持っているレトロな感じというのは今回のアルバムに合うと思いましたね。

― 「レトロフューチャー」は、ロックやダンスの尖った要素がいっぱいありますが、それを聴きやすくしていて。実は、今のポップスの定番はここにあるんじゃないかなと思いました。そしてゆずはそこからさらに一歩先に行っている気がします。

北川
まさにそうで。ただむちゃくちゃにやるっていうのは、実はすごく簡単で。それをどこまでポップス化できるかというのが自分の中で大きなテーマなんです。通常のシングル曲だと、よりポップなテーマを追求することが多いんですけど、アルバムの中の中盤の曲って、やはりそれだけじゃない、なにかひとつ踏み込んだトライをしたいなと思っていて。特に今回ハマったと思ったのは声のエフェクトです。「ユートピア」や、「雨のち晴レルヤ」の中でも実は使ってたりするんですが、この曲が一番、いろんな機材を使いながら可能性を模索していきました。

― エフェクトをかけた2人の掛け合いは絶妙かつ新鮮でした。

北川
声を加工することは今まで踏み込んでこなかった領域なので「ゆずがそんなことやるんだ」と賛否両論あると思うんです。それをやってしまうとゆずが壊れてしまうんじゃないかという危惧も過去にはあって。でも、今はやっても良いものができるんじゃないかなという思いがありました。エフェクトをかけることで、新しい感じと、なぜか懐かしい感じもする部分もあったりして面白いです。
岩沢
タイトル通りですね。『新世界』にも通ずると思うんですけど。サウンド的な面では大挑戦しているんだけれども、ちゃんとゆずの曲になっているという印象です。

― このアルバムを通じて、もはやなにをしてもゆずになるという確固たる自信が垣間見えました。これはもう揺るがない?

北川
やはりベーシックな作業はずっと変わらないので。可能性はずっと増えてるんですが、根本的な作業はSAKURA STUDIOで種を作って広げていくことから始まっているので、そこなんじゃないかな。例えば先にサウンドを作り上げちゃって、あとからゆずをのせてくってなると少し難しいのかもしれないけど、まず弾き語りで、どこまでその曲のニュアンスを出せるかをやるんです。そこから展開させていくので、あまりブレないんじゃないかなと思います。

― 続いて「ひだまり」です。あたたかみあるサウンドはもちろん、アカペラから始まる感じも良いです。

岩沢
空気感をとても大事にした曲ですね。「弾き語りでもいいじゃん」となりそうな曲でもあるんですけど、元の良さをなくさないようにちょっとアレンジを加えていきました。タイトルの通り、照りつけるような太陽ではなく、ほっとなるような空気というか雰囲気を込めて。「ひだまり」の字のとおりです。

― 「ほらいつもよりも素晴らしい朝だよ」という歌詞には、ホーンしかないですね(笑)。

岩沢
そうですね(笑)。ほかには映画のお話をいただいていたのも大きくて。『銀の匙 Silver Spoon』の原作を読みながらこんな感じかと曲に反映させた部分もあり。自分にもそういう時代があったなあと思いながら作りました。
北川
原型がすごく良かったので、やりすぎることはよくないなと気をつけつつ、今まで聴いたことのない肌触りや二人の掛け合いができないかなと。シンプルだけど面白みあるものができないかと模索して、納得できる良いものができたと思いました。