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Interview

“音楽が国境を越えていく”をモチーフに

——まず表題曲「終わらない歌」が生まれたきっかけを教えてください。

北川悠仁(以下、北川):前作「OLA!!」をつくったときに、すごく手応えを感じまして。この曲の延長線上として、普遍的なテーマではあるんだけど<音楽が国境を越えていく>をモチーフに、次のアルバムのメイン楽曲になるようなものができないかと思い、制作をはじめました。

岩沢厚治(以下、岩沢):「OLA!!」から派生していったという話は聴いていたので、テーマ的には「OLA!!」に近いのかなと思いつつ、ゆずらしい明るく、スタンダードな応援歌になったんじゃないかなという印象です。非常に北川らしい曲、世界観だなと。

——マーチングアレンジが印象的なピースフルな楽曲だと思います。大筋の構成やアレンジは決めていたんですか?

北川:この曲をつくろうと思ったときに、たまたまテレビでマララさん(17歳にして史上最年少のノーベル平和賞を受賞した、パキスタン出身の女性)がノーベル平和賞を受賞したときで。それからマララさんのインタビューやスピーチを聞いたり、本を読んだりして、本当に感動して感銘を受けたんですよね。こんな少女が、変な言い方だけど、世界を敵に回して懸命にメッセージを投げかけてる。そのメッセージが、こんなアジアの片隅にいる自分にも届いて。それと同時に、日本も今年戦後 70 年という、ある意味節目の年で。その 2 つが自分のなかでリンクしたんです。そこから“平和の賛歌”をゆずなりにつくりたいと。それも『WONDERFUL WORLD』や「Hey 和」からさらに発展させた、あくまで現代のポップスとしての曲を。

——シングル楽曲としては、このマーチングサウンドは新鮮に響きます。

岩沢:そうですね。これまでアルバムの曲だったりではいくつかあったんですが、ここまでマーチを全面に押し出したシングルっていうのはなかったと思います。ただ北川の話もあったとおり、このタイミングでなるべくしてシングルになった曲なんじゃないかな。

——歌詞と曲、どちらが先に浮かんできたのでしょうか?

北川:ほぼ同じタイミングでしたね。サビの♪高らかに鳴り響く~ という部分のメロディが、ファンファーレみたいに頭のなかで鳴って。それに付随して、自分の中でサビの歌詞が浮かんできましたね。「終わらない歌」というタイトルも、そのとき歌いながら出てきた感じがします。

——今回はアレンジだけでなく、作詞・作曲にも前山田健一さん(ヒャダイン)が参加しています。

北川:「OLA!!」からの流れもありましたし、この曲もぜひ一緒にやりたいなって。僕のなかで、Aメロやサビだったり曲の核となる部分はできていて。そこから、いろんな世代に届いてくれるような温度感に曲を落としこんでいきたいなと。自分のなかの情熱をぜんぶ曲にぶつければ、それが一番いいのかというと、そうではないと思っていて。「かける」では若いミュージシャンに参加してもらったけど、今回はヒャダインにアレンジだけじゃなく詩曲でも参加してもらいました。

——最終的な仕上がりは予想以上でしたか?

北川:バッチリ! 特にDメロの展開は素晴らしかった。<音楽は国境を越える>というテーマを曲中の歌詞で体現できたかなという気持ちはすごくあります。

——ゆず×マーチングについて、サウンドを融合させていくうえで意識した部分はありましたか?

北川:アレンジの面ではたくさんあるかな。それこそブラスのアンサンブルや、一緒に作品づくりに参加してくれているヒャダインが元々持っているサウンドをどういれていくかだったり。でも一番は、そのなかで“ゆず”としてどうアコースティックギターと歌を表現していくか、そこは相当こだわりました。

岩沢:マーチングサウンドの中でのアコギと歌のあり方といいますか。究極、なくても成り立つし、かといってないとゆずではないし。邪魔をしてはいけないし、逆に目立たないのもダメだし。結果として、難しいことをやっても似合わないし、そういう小細工は通用しないなと。すごくシンプルに、だけどゆずらしいアプローチになったんじゃないかと思います。

——歌唱の部分についてはいかがでしょうか?

北川:音符どおりに歌えばいいわけでもなく、その曲に対して“おいしい歌い方”というのがあって。これまで、それがレコーディングの中で掴みきれてなかったときもあったんです。自分の曲に追いつけていないというか。それこそ、ツアーが終わったときにやっと掴んだ! みたいな。だけど「終わらない歌」については、歌入れの段階でちゃんとこの曲をつかまえられたと思っています。

——平和へのメッセージはもちろん、次世代への橋渡しとなる楽曲のような気がしていて。今のゆずだからこそ歌えることなんだと思いました。

北川:『WONDERFUL WORLD』のときに歌っていたものとは少し変わってきていて。自分に子どもができたことがすごく大きいと思うんですけど、やっぱり自分だけの未来じゃないという意識は以前にも増して感じています。いままでも「未来の子どもたちに大人としてなにを残せるのか」ということを考えてきたけど、より具体的に考えるようになったし。18年続けてきたなかで、じゃあゆずとしてどんな音楽を鳴らせばいいんだろうと思いました。

——「かける」と同じく、時代的背景も汲んだうえで生まれてきた部分もあると。

北川:時代というか、平和の中にある張り詰めた緊迫感みたいなものをどうする術もなくて。そういうどうすることもできない自分の無力さに出会うたびに、それが曲になっていくというか。やっぱり、音楽しかないなって思うんですよ。震災のときもそうだったけど、本当に申し訳ないんだけど、音楽にすがってしまうというか。直接言葉で言うのもいいんだけど、音楽としてどう次世代に伝えていけるのかを想いながらレコーディングしていました。

——今後のゆずとして、聴く人を導く“フラッグ=旗振り”となる楽曲になりましたね。

北川:そうですね。「かける」は自分の想いや自分が感じた時代性を吐露した内容だったけど、そのなかで具体的な解決策は提示してないんですよね。だけど「終わらない歌」は、自分で一歩ないし二歩進んでいくんだという想いを込めて。ポロッとできたというよりは、確固たる決意をもってできた曲ですね。

ある部分において、過去の弾き語りを超えているものに

——表題曲に続き、カップリングのお話を。「二人三脚」は、この夏行われる<ゆず 弾き語りライブ 2015 二人参客 in 横浜スタジアム>のテーマソングとして制作された、お2人の共作楽曲となっています。

北川:はい。今回弾き語りライブでのスタジアムライブが決まり、さあやるぞ、となったときに、ライブのタイトルを考えていて。あれは目黒通りだったと思うんですけど、都内に向かうときに「二人三脚」という言葉が浮かんできたんです。自分たちがやってきたことって、まさに“二人三脚”だったなと。そしてライブタイトルは当て字にしたんですけど、この“二人三脚”というテーマから、曲をつくりたいと思ったんです。もちろんゆずとしてもしっくりくるし、世の中っていろんなパートナーシップで成り立っているから、みんなにとっても共通するキーワードなんじゃないかと思って。

——そのときから、共作にしようと考えていたんですか?

北川:そうですね。タイトルも「二人三脚」だし、やっぱりこれは共作でつくったほうがおもしろくなるんじゃないかと思いました。曲の原型になるものを僕がつくって、岩沢くんにこういうことをやりたいと話して。そこからは基本的にメールでやりとりをして、少しずつ肉付けしていきました。

岩沢:北川からほんのワンフレーズだけデモをもらって、そこからちょっとずつ、日記を交換するように(笑)、進めていきましたね。曲と一緒にメモ書きが添えられていて、「サビのようなAメロです」「BメロっぽいDメロです」みたいな感じで、何回かやり取りをしたあとで、じゃあ組み立ててみようかと。

——弾き語り曲の共作は過去にもあまりないということで、制作はいかがでしたか?

岩沢:共作という言葉の括りにしてしまうと共作なんだけど、面と向かって、五線譜を机に並べてこうしようああしよう、でもなく、個人制作の結晶ですね。お互い、曲を完成させちゃいけないんですよ。このメロディができたから次は…一旦やめて、バトンを渡すことでまた次のメロディが生まれる。あ、転調した! みたいな(笑)。自分だったらやらないようなことをお互いやるので、楽しかったです。「REASON」のヒャダインくんがいないバージョンに近いかも。

——最初から曲のイメージが固まっていましたか?

北川:そうですね。はじめからライブのテーマソングとしてスタートしたので、だだっ広いスタジアムで、自分たちがその歌を歌っている姿はずっと頭の中にありました。そこで歌う曲は、どんなものがいいんだろうと。でも、ただ単に弾き語り曲ではなくて、どこか新しく、だけどいまの自分たちにもしっくりくるよう―ある部分において、過去の弾き語りを超えているものにしたいなと。そこはすごく気をつけました。

——シンプルながら、メッセージがダイレクトに伝わる曲だと感じました。

岩沢:弾き語りのパワーっていうものを、10代の頃から信じていて。なにも着飾らない素の状態こそが、曲の持っている真の力なんじゃないかと思ってるんです。これは「二人三脚」に限らず、それこそ「REASON」や「表裏一体」にも共通して言えることなんだけど。その曲の持っているエネルギーを素直に出せるスタイルなんじゃないかと。そういう意味では、「終わらない歌」の対極として、いいバランスだと思いますね。

この「終わらない歌」のシングルが、いまのゆずの状態を表す1枚になっている

——そして3曲目には、2009年に発表されたバラードナンバー「みらい」の弾き語りセルフカバーが収録されています。

北川:「終わらない歌」と「二人三脚」の2曲で成立するシングルではあったと思うんですけど、なにかもう1曲…ファンの皆さんに届けられるものがないかと思って、セルフカバーを思いつきました。いろんな曲を提案してやってみたなかで、岩沢くんから「みらい」がいいんじゃないかと提案をもらって。すごくいいなとピンときたんです。

岩沢:いまはシングルひとつとってもいろんな出し方があるんだけど、なにが嬉しいのかなと思ったときに、やはり形に残るものがいいなと思い。ただ、「二人三脚」も収録されるし、どの曲を加えれば成立するんだろうとことで悩みましたね。そんななか、二人参客のリハーサルを進めていたときに、「みらい」が弾き語りに向いてるんじゃないかと思ったんです。純粋に、リハをやってみての出来がよかったんですよ。それに「二人三脚」、二人参客ライブ、そして自分たちのふるさと、横浜を想ってつくった「みらい」のテーマが合致したんですよね。

——同じ弾き語りなんですが、「二人三脚」とは音の質感が全然違いますね。より生々しさが出ている感じがします。

北川:録り方はすごくこだわりましたね。同じ弾き語りでも、「二人三脚」と違って、一般的に録ると、リハでやっている聴こえ方や手応えが消えちゃうなと思ったので。うちのスタジオの広いスペースにマイクを立てて、限りなく一発録りに近い形で。リハでやっている聴こえ方や手応えを普通にレコーディングしたら消えちゃうなと思ったので、うちのスタジオで広いスペースにマイクを建てて、限りなく一発撮りに近い形で。ゆずがそのへんで弾いてる感じがするでしょ?(笑)。思っていたよりもよくできたと思います。

岩沢:リハ中に生まれたアイディアというのも大きかったと思うんですが、こういうやり方は、『ゆずの素』(97 年発売のミニアルバム)以来じゃないですかね。もっとちゃんとした綺麗な音で! というよりは、このくらいの部屋であそこにゆずがいて、マイクがあって、この距離で歌っていて…と、臨場感を聴いていただけたら。シングルの3曲目のギフトとしては、いいものができたんじゃないでしょうか。

——テーマの一貫した3曲が並ぶことで、このシングル自体が、ゆずにとってフラッグ=象徴的な旗となっている気がします。

北川:昨今、シングルを出す意味ってすごく考えさせられることがあって。これだけ配信が進んでいるなかで、自分たちはシングルCDを出す以上、作品としてどういうものであるべきかにこだわりたいし、ただ目立つものを入れるわけじゃなく、ゆずとしての意思を入れたいと。そういう意味では、たしかにこの「終わらない歌」のシングルが、いまのゆずの状態を表す1枚になっていると思います。

岩沢:「終わらない歌」という看板に対して、「二人三脚」はテーマとしてマッチしていたし、そこに引き寄せられるように「みらい~弾き語り Ver.~」が生まれた。3曲入りの短いアルバムという印象です。パッケージとして意味があることができたんじゃないかと思います。

二人参客に向けて、ファンの方へ

——二人参客に向けて、ファンの方へメッセージをお願いします。

岩沢:“しょせん”弾き語りという思いもあるんです。そのうえで「弾き語りいいじゃん!」って思われる説得力というか。音の数ではバンドに絶対勝てないから、4本の手と2つの顔でどれだけできるかっていうのはすごく楽しみです。音が小さかったら耳を澄ましてほしいし、細かいことをやってたら目を凝らして観てほしい。「ゆずってこうだったね」と「ゆずってこういうことやるんだ」というライブをお見せできればと思います。

北川:ただただ、楽しみにして来てくれるのがコンサートだと思っています。ライブや曲のなかにはたくさんメッセージが詰まってるんだけど、それはそれぞれ感じてくれればいいので。これも弾き語りなの?という、新しい弾き語りライブをぜひ楽しんでほしいなと思います。