「雨のち晴レルヤ」は、現在放送中のNH連続テレビ小説『ごちそうさん』の主題歌。同曲にはトランペット、ピアニカ、篠笛など、“和テイスト”を引き立たせるさまざまな楽器が登場し、三拍子のリズムに乗せて、懐かしくも新しい感覚の音世界を堪能することできる。
大正~昭和時代を舞台にしたドラマと楽曲とのリンク感が強く出ているが、もともとこのテーマ性を意識し始めたのはもう少し前。アルバム『LAND』を完成させ、次のステップへ進もうと新たな道を選択する際、「過去から受け継がれている旧き良き日本の文化や衣装、メロディや空気感を、現代のゆずが表現したらどうなるのか」に着目。それと同時期に朝ドラ主題歌のオファーを受けた。
近年のゆずは北川悠仁、岩沢厚治の二人だけの制作にとどまらず、楽曲の特性によっては前山田健一氏、JIN氏をはじめ第一線で活躍するクリエイターとタッグを組み、枠組みに捕われない楽曲を生み出してきた。そこにゆずとして新たな可能性を感じてきたし、またそれはひとつの<アート>や<クリエイティブ>の意味合いとしても成立してきた。そしてそれは、今回の篠笛奏者・佐藤和哉氏との共同制作も例外ではない。
間奏部分には、実験的な試みとしてドヴォルザークの「新世界」が導入されている。これにより楽曲の方向性がさらに研ぎすまされ、聴く者に壮大な躍動感を与えている。柔軟性の高い今の時期だからこそ、チャレンジすることができた内容と言える。
楽曲にインスパイアされるかたちで完成したMusic Videoは、哀愁と叙情感ある “和テイスト”と、大正~明治時代の空気感や旧き良き日本の文化性を昇華。スタジオに舞台セットを特設し、楽曲の展開に合わせリアルタイムに舞台がめまぐるしく変化。人ごみの喧噪にまぎれ登場するゆずを皮切りに、なにげない人々の生活や表情に触れ、自然と心が晴れやかになっていくさまを、温もり溢れるテイストで表現。MVを手がけたのは、唯一無二の世界観を持つ女性写真家で映画監督も務める蜷川実花氏。ゆずとは2007年に発表された楽曲「明日天気になぁれ」のMVを手がけて以来、6年ぶりのタッグとなる。
蜷川実花氏独自の色合いで描かれた世界の中に映写器機を用いたプロジェクションマッピングも随所に使用され、まさに過去と現代の音楽・アートが融合されたMVに。また、本作では蜷川実花氏の父で演出家・蜷川幸雄氏も撮影協力として参加。“蜷川組”と称される実力派の役者たちが多数登場し、ゆずの脇を固めて作品の説得性をより高めている。
― 今回の作品のテーマ・着眼点はこれまでのゆずにありそうでなかったものですね。
- 北川
- 僕らはもちろんリアルタイムに大正〜昭和という時代を生きているわけではないんですけど、改めて当時の社会や文化なんかを掘り下げて知っていくうちに、とても面白いなと感じました。めぐりめぐって自分たちにはそれがすごく新しい感じがして興味を持ったのと、その雰囲気とこれまで自分たちが構築してきたもの、プラス今の時代観を掛け合わせたら一体どういうケミストリーが生まれるのだろうとワクワクしたし、そこはすごく意識していましたね。
― オファー前から方向性は定まっていたんですね。
- 北川
- タイアップにジャストで答えるものではない、それを元にして飛躍していくような、今の自分たちのやりたいことを表現したものを作る方がいいんじゃないかなっていうふうに思うようになったんですよ。それで世界観の構築から曲を作るアプローチにシフトしていったんですよね。
― よりアートであり、クリエイティブな手法だと思います。
- 北川
- 言わば総合芸術というプロジェクトを立ち上げる感覚ですね。まさにそんなタイミングで篠笛の佐藤くんが演奏していた曲に出会って、それが自分が描こうとしているものにしっくりくるなと思ったんですね。それで彼に声をかけてプロジェクトに入ってもらったんですよ。
― じつはその考え方とか曲へのアプローチこそが、今のゆずの王道という感じがすごくしますね。
- 北川
- 昔は“自分印”みたいなものにこだわる時期もあったんですけど、自分をも超えていくおもしろい何か、みたいなものを作っていきたいなという思いが今はすごく強くて。だからひとつの世界観を立ち上げて、自分の思いを中心にそこにどんどん巻き込んでやっていくっていうやり方が、新たな引き出しとしてすごく強くなっているような感じはしますね。
― やはり大きな物語があると、リスナーも含めてそこに参加しやすいですよね。
- 北川
- 気をつけているのは、明確なヴィジョンを正確に伝えられる準備をしておくということ。明確に自分はこういうものがやりたい、こういう形にしていきたいということがちゃんと自分の中で確信的になってから、次にじゃあ二人でどういうふうに具体的にしていこうかっていう時になってはじめて話し合いますね。
― 岩沢さん、「LAND」の時も北川さんから明確な意志の伝わるデモ音源が上がって来て、だからこそそこにご自身のアイデアなり色を乗せることができたとおっしゃっていましたが、今回もまさにそのような感じだったんでしょうか。
- 岩沢
- もっと鮮明でしたね。篠笛やトランペットをはじめとしたサウンドからその曲の背景や懐かしさが自然とこみ上げてきましたし、メロディもスッと入ってきました。これまでのゆずにないテイストではあったんですが、自分なりに曲とコミュニケーションや解釈をして、新たなアプローチで制作することができました。
― 具体的な曲の中身についてお訊きしますが。三拍子じゃないですか、この曲。面白いですね〜。かわいらしさ、懐かしい手触り、少し退廃的な匂い、そしてどんどん力強さが増幅していく感じ、わかりやすさはあるんですけど、とらえどころのない、という不思議な曲です。
- 北川
- 迷いましたね。朝ドラの曲なので、たとえば「栄光の架橋」みたいに、ゆずを知らなかったより多くの人に届く、ということを考えた時に、三拍子でいいんだろうか、みたいな(笑)。こちらの勝手な思い込みかもしれないんですけど、三拍子って正直シングル曲にはなりにくいっていうのがあって。
― なるほど。
- 北川
- けど、言葉の乗せ方と当時の時代感覚みたいなものが三拍子だとすごく表現しやすくて、世界観を描く上でもポイントになりましたね。途中四拍子が入ったりするんですが、僕の中ではしっくりきました。三拍子で日本のスタンダードを作るっていうのはおもしろいなぁと思いましたね。
― 案外、童謡の有名な曲には三拍子が多かったりするんですよね。あまり意識してないですけど。「ぞうさん」とか「鯉のぼり」「赤とんぼ」とか。
- 北川
- そうなんですよ。他のグループに比べたらゆずは三拍子の曲は多いような気がするんですけど、こういったノスタルジックな感覚の三拍子はこれまでもあまりなかったかもしれないですね。
― 間奏に使われているドヴォルザークの「新世界」もまさにそういった掛け算的融合の発想からですね。
- 北川
- 昔、それこそドラマの舞台となっているような大正時代や昭和の始め頃って、日本の音楽と西洋のクラシック音楽をうまく融合させてる曲がたくさんあって、それで誰もが一度は聴いたことのある有名な曲とマッチさせられないかな、と探っていたんですよ。いろいろ試してみてその中で「新世界」がドンピシャにはまったんです。
― ミュージックビデオも秀逸です。というか、ここまでやっちゃう!? みたいな(笑)。
- 北川
- そう(笑)。じつはそこが一番悩んだところだったり。
― そうなんですか?
- 北川
- やろうと思ったらどこまでもこだわれるんですよ。本当に際限がないくらいに。それを監督の蜷川実花さんのアイデアで舞台という設定にすれば、書割りも使えるし、次々に場面が転換していっても違和感はないだろうと。明るいものに潜んでる悲しいものとか、ハリボテなんだけどそこにものすごい高度な技術や繊細なアイデアが惜しげもなく注ぎ込まれているとか、洋服と着物とか、そういうミスマッチの掛け算が随所にあって、そこを楽しみましたね。
同楽曲は、映画『すべては君に逢えたから』の主題歌に起用。ストリングス、ピアノ、アコースティックギターを基軸に、大きな愛のかたちを歌ったラブバラード。シンプルながら力強さを秘めた歌詞を歌い上げる北川悠仁と岩沢厚治の歌声は感動必至。現在のJ-POPシーンに真正面から乗り込んでいく姿勢が見えるような、王道ナンバーだ。Music Videoには、映画『ヒミズ』、ドラマ『Woman』など話題作に多数出演しブレイク中の若手女優・二階堂ふみが主演するショートムービー風MV。主人公の女の子・ふゆとぬいぐるみのクマタロを通して、自分が「守りたいもの」「守られている」ことを再認識することができる、心温まる絆のストーリー。単純なラブストーリーとは一線を画す、全世代に共感される新しいかたちの“泣けるMusic Video”が完成した。
― そして、両A面シングルのもう一方の楽曲「守ってあげたい」ですが。「雨のち晴レルヤ」が今のゆずにおけるスタンダードの確立を目指したものだとすれば、「守ってあげたい」は世の中のJ-POPと言われるスタンダードへのゆず的回答、とうふうにも受け取れる楽曲ですね。
- 北川
- うん、スタンダードなラブ・ソングが作りたいと思ったんですよね。『LAND』の世界観をやり切った後に、今の自分の年齢で作れるラブ・ソングで、いろんな世代の人に届く曲を作ってみようって、かなりのチャレンジを自分で勝手に始めたんですよ(笑)。誰に言われるともなく。
- 岩沢
- じつは、ここ最近なかった王道感、なんですよね。
― 岩沢さん、この曲に対してはどのような印象を持たれましたか?
- 岩沢
- 蓋を開けてみると、おやおや、というようなポップスのマジックが張り巡らされている楽曲なんですよね。骨組みを一度解体してみると、意外なところに添え木がしてあった、というような作りですよね。屋台骨がしっかりしてて、超合金でできてるぞって。でもあからさまに聴く人にはそれを見せないという美しさがある、そういう曲でしたね、触れてみて。
― だから両A面で非常にバランスのいい曲が並びましたね。
- 北川
- そうですね。今は偏った方向には安易にいかないっていう自信はありますね。そういった意味でバランスの取れた時期なのかもしれません。
― カップリングは岩沢さん作詞作曲の「飛行機雲」です。水彩画のような印象の曲ですが、詞で描かれた心象風景には拭いきれない危うさのようなものがあって、とても印象に残る楽曲です。
- 岩沢
- わりと前に作った曲なんですよ。
― いつ頃ですか?
- 岩沢
- 4、5年くらい前になりますね。
- 北川
- シングルの2曲が決まった時に、ゆずとしてもう1曲入れるなら、僕は「飛行機雲」だなと思ったんですよ。これは弾き語りとして完成している曲だったので、アレンジしていく難しさというのはすごくありましたね。
― 「飛行機雲」が入ることによって、シングルを超えたスケール感のある作品としての懐の深さが出ましたね。
- 北川
- やっぱり僕らは時代がどうであれ、シングルならシングルという作品にこだわってこれからも作っていきたいですね。