Official Interview

――オールタイムベストアルバム『ゆずイロハ 1997 - 2017』のリリース、そして自身初のドームツアーを経て、いまの心境を聞かせてください。

北川悠仁:昨年から、20周年は大きな節目だし、ファンの皆さんと「ゆずの実り」というか、今までゆずとしてやってきた音楽や歴史を味わえたらいいなと思っていたんですが、自分が思い描いていたよりもすごく大きく、そして深い形で味わえていて。なおかつ、ゆずのことをさらに多くの方に知ってもらえたのかなという実感もあったりして、すごく充実した気持ちでアニバーサリーイヤーを迎えられています。

岩沢厚治:自分たちで「お祭りごとをやろう!」と決めたものの、なかなかやることが多くて(笑)。だけど、とても楽しんで日々を過ごしています。色々な人たちに『ゆずイロハ 1997 - 2017』が届いている実感としては、ドームツアーに大勢の人が来てくれたことでしょうか。あとはプロモーションで普段出演しない情報番組やバラエティ番組に出させていただいて、その結果がついてきたんじゃないかなと思っています。

――アニバーサリーを象徴するドームライブで、これまでゆずが生み出してきた数々の楽曲を改めて届けていることについて、楽曲に改めて向き合い、感じたことはありましたか ?

北川:今回のライブのMCでも話したんですけど、僕は自分たちの曲がみんなの人生の中に寄り添えるような音楽になれたらいいなと思ってずっと活動してきて。加えて、僕はリーダーとして、新しいものを常に提供し続けていくことを大切に考えていたし、ときにはその自分たちがやってきたものを否定して、新たなものを生むという苦しい作業を行った時期もありました。その中で感じたことは、みんなが本当に、ときには僕たちよりも僕たちの音楽を愛してくれたりしていて。ゆずとしてつくってきたものが、こんなにみんなに想われているんだと、この20周年ですごく感じられて。そのことが喜びでもあるし、これからさらに進んでいく上での大きな力添えというか、励みになったし、生きがいにもなりました。

岩沢:過去の曲たちを演奏することで、懐かしさとかノスタルジックさも感じるんですけど、「この曲は大事に歌い継いでいかなきゃな」という責任感も感じました。そして過去の曲と同時に新曲も演奏していくなかで、その曲も数年後、同じ気持ちで演奏しているのかなと、いろんなことを考えさせられましたね。

――ドームツアーでは新曲として「タッタ」「カナリア」を披露されました。

北川:20年で実った“実”を味わいながらも、みんなを次の場所へ連れていくようにフラッグシップを立てて進んでいくべきだと思っていて。なので「タッタ」も「カナリア」も、つくっていたときから、ドームツアーでやりたいなと漠然と思っていました。

――そんな「タッタ」「カナリア」を含む、ゆずの新作CDが発売されます。今回は EP という形態をとり、6月21日(水)に「謳おう」 EP 、6月28日(水)に「4LOVE」 EP と、2週連続の EP リリースとなります。2枚合わせて、8曲の新曲が収録された大ボリュームな内容ですね。この EP の発想はどこから出てきましたか ?

北川:まず「謳おう」という、1枚目の EP を出すプロジェクトが出てきまして。何度も言ってしまっているんですが、僕の中にある大きなテーマが「魂変えずにツールを変える」で。時代ごとに作品発表の形態が変化していくなかで、この EP という仕様は、自分たちのやってきた音楽性的にもすごく興味があって。これまでシングルを発売するときも、楽曲ごとにコンセプトを大切に持って届けていたので、今回の EP がフィットしたというか。次のゆずがどこへ向かうのかということを、こうやってコンセプトをまとめて示せるのは、とても自然な流れですね。

岩沢:年末から曲作りは進めていたんですけど、「この曲たちも、いずなんらかの形でCDに収録されていくんだろうな」と考えていたんです。その過程で EP 2週連続リリースのアイディアが出てきて。実は昔、4週連続CDリリースという、似たようなことをやったことがあって(2003年2月に「青」「呼吸」「3番線 / 水平線」「スミレ」を連続リリース)。あのワクワクした感じを思い出させてもらった感じですね。しかも、この時代に配信ではなくパッケージリリースということで、もう一度CDを信じてみようではないけれど、CDを出す喜びと、それを手にするみんなのワクワク感を、改めて体感したいなということは思いました。

――まず1枚目の「謳おう」 EP のお話から。全編アコースティックがコンセプトとなっていますが、なかでも象徴的な楽曲は1曲目「カナリア」だと思います。日本テレビ系「NEWS ZERO」テーマソングとしてもオンエア中です。

北川:今回、「NEWS ZERO」さんからテーマソングのご依頼がありまして。僕たちは「逢いたい」という曲で「NEWS ZERO」と出会ってから、ひとつの報道番組ということだけではなく、その番組が関わってくれたことで「Hey 和」という楽曲ができたり、2011年の震災後には、様々な形で復興支援や東北の人たちと触れ合うことができたり、一緒に色々な想いを積み上げてきました。その中で、今回のテーマソング、「カナリア」という楽曲が、ゆずと「NEWS ZERO」のひとつの集大成になると思いました。

――報道番組のテーマソングという特異な内容かと思いますが、制作はスムーズに進みましたか?

北川:やっぱり一筋縄では曲を書けなくて。いや、実際は書けてはいたんですけど、「これが絶対に番組の最後に流れるんだ!」という確信が持てなかったりしていて。本当にこれでいいのかなと、考えながら曲をつくっていたとき...ちょうどゆずのみのリハーサル中で、千葉で合宿をしていたんです。そのランニング中に、サビが浮かんできました。

――サビすべてですか?

北川:いや、「謳おう カナリア」のフレーズかな。

――“カナリア”という鳥のモチーフはどこから出てきたのでしょうか?

北川:カナリアって、2つの側面があると思っていて。南国で明るい鳥なんだけど、なぜか昔の童話や歌の中では「歌を忘れたカナリア」みたいに物悲しい印象があって。僕はそうやって、ひとつのものを違う側面から見ると相反するものに見えてくる物事がすごく好きだし、そういうものの中にポップスを見出すことが多いんです。なので、ぴったりなモチーフだなと。歌を歌う鳥だし、色も黄色いし、勝手にゆずっぽいとも思ったし(笑)。

――“カナリア”と同時に、“謳おう”という言葉も印象的です。歌おうや唄おうではなく、謳おう、なんですね。

北川:「カナリア」って、実はそんなに明るい曲じゃなくて。葛藤していたり、もがいている部分も歌の中では吐露しているんですけど、最終的に番組を観ていたり、曲を聴いてくれた人が悲しい気持ちで終わらず、明日への希望を繋げていけるような歌にしたいなと思ったんです。それが20代の頃の、がむしゃらな希望や、とにかく明日へ!というものよりは、いろんな物事をわかったうえで、それでも希望に進むんだというメッセージにしたいなと。そういう意味で、いろんな人たちへ向けた想いや歓び、願いの意味が含まれるこの“謳おう”という言葉に出会えたことは、すごく大きいなと思いますね。

――サウンド面でも新たな挑戦が垣間見えます。今回、ヒップホップユニット・MOROHAのギタリスト・UK氏を招き、唄の背景で流れる印象的なギターサウンドが生まれたそうですね。

北川:サビができあがったときに、これは良い曲になるんじゃないかという予感がして。それで、この曲の可能性をさらに深くまで掘り下げたいなと考え始めたんです。「ゆずのみ」ライブを経て、ゆずのスタイルはもう確立しているという手応えも感じられたので、そのベーシックを越える、なにかがないかと探していたときに出会ったのがUKだったんですよ。MOROHAというユニットがやっているのは、アコースティックを使ったヒップホップというか、ゆずとは似て非なる部分があったんですが、自分のいつもの好奇心に勝てなくて(笑)。僕がつくったものをさらに展開していけるようなセッションができないかなと思って、蔦谷(好位置)くんのスタジオに集合して、サビをもとにトラックをつくり、メロディを紡いでいきました。すごく刺激的な曲作りでしたね。

――サビ以外のメロディもこれまでにないテイストですね。

北川:自分で弾き語りをしながらつくっていたらできなかったんじゃないかな。まずギターのトラックができて、それに乗っていくという。すごくワクワクして面白かったですね。これをみんなが聴いたら、どんなふうに響くんだろうって。

――岩沢さんは、「カナリア」の曲にどのような印象を持ちましたか?

岩沢:まず、印象的なギターリフだなと。とはいえ、ゆずも今までのキャリアのなかで色々な人たちとコラボレーションをしてきたので、UKくんも違和感なく馴染めたというか。ゆずの次のステージとして新たな要素を取り入れている中の一環かなと思いました。そしてサウンドに耳がいきがちですが、歌も頑張っています。

――これまでと変わった部分があるんですか?

岩沢:こちらも挑戦している感じで。簡単に言えば、年相応に歌っているといいますか。さらっとしているようで、すごく凝っているんですよ。すごく小さな声だけど強く歌っているという。キーも実は低めで設定していたりとか。ベクトルは違うかもしれませんが、北川もボーカルとしては新境地だと思っていて。なので聴いていて、もちろんいい意味でなんですが、気持ちのいい違和感がありますね。

――ドームライブではいち早くファンの人たちの前で披露しましたね。

北川:今回のライブで「カナリア」をやろうと決めたのは、実はリハーサルに入る直前で。ドームツアーという、たくさんの人が観にきてくれる中で、僕たちの新しい一歩を示せたら、そんな良いことはないんじゃないかなと。あとは、「一番好きな曲はなんですか?」と聞かれたときに、僕は「最新の曲です」といつも言いたくて。いま自分のつくったものが一番好きだからこそみんなに聴いてもらいたいのであって。そういう意味では、一番好きなものを一番早くライブで届けられるという、ミュージシャン冥利に尽きることでもありますね。