TOWA オフィシャルインタビュー

——約2年ぶりとなるオリジナルアルバム『TOWA』がリリースとなります。完成した作品をご自身で聴いてみて、いかがでしたか?

北川悠仁:手前みそですが、素晴らしいものができたなと思いました。去年、自分のプライベートスタジオ(STUDIO HOUSE)ができてから曲をコツコツとつくり始めて。特にコンセプトを決めたわけじゃなく、日々生まれてきたカケラ(曲)たちが成長していって、“TOWA”という線で結ばれた。満足のいくアルバムになったと思います。

岩沢厚治:一年の軌跡を追っているような印象でした。長い期間をかけて一曲一曲つくってきたので、あ、ここでこの曲をつくったなとか、そういうものが積み重なってできたアルバムだと思います。

——近年のアルバム『LAND』『新世界』と並べたときに、制作にあたって一番大きな違いはなんでしたか?

北川:ゴールを決めずに始めたことですね。タイアップがきたから曲をつくるとか、コンセプトはこれ、ではなく、自分がいま感じていることとか、いま鳴らしたい音みたいなものを自分のペースでつくっていけたんですね。やり方としてはある意味アマチュアっぽいというか。与えられたミッションをこなすというよりは、STUDIO HOUSEが実験室みたいな感じで、そこでいろんな音を鳴らしながら研究を重ねていって。そのなかで自然と曲ができていきました。

岩沢:産みの苦しみみたいなものがなくて。無理したり背伸びせず、いまやりたい曲をレコーディングしていった感じかな。レコーディングしているときから、ライブでこう歌うんだなということが想像できたし。曲と自分たちが近い距離にいる感覚です。

——全体を通してパーソナルというか、まさしくご自身がいま感じている想いやメッセージがダイレクトに反映されているなと感じました。この制作モードにはどのようにシフトしていったんですか?

北川:まずはアルバム『新世界』と、それに伴うツアーをやり切れたことが大きくて。そこで得たもの――パフォーマンスはもちろん、タイアップソングをプロとしてクオリティ高く表現して、音楽の幅を広げられたり。そんなことができた一方で、少しの苦しさみたいなものもあって。大きな流れの中で、みんな歯を食いしばってやってきたんですけど、このやり方を続けていくと、いつかミュージシャンとして擦り切れてしまうんじゃないかという恐怖心が湧いてきたんです。そうじゃなくて、もっとマイペースな時間軸で制作ができないか。それと同時に、“個性的なアレンジャー×ゆず”の方法論の先をいくサウンドクリエイトというか、生音に対するオリジナリティを大切にしたいなと思ったんです。

——今回も個性的な楽曲が並んでいますが、シングル曲以外でこだわった制作アプローチなどあれば教えてください。

北川:そうだな…『みそら』や『いっぱい』とかは、目標にしてたのは“ピアニストを泣かせたい”。ギターの弾き語りでつくる曲はこうだろう、とか、これはあとでアレンジャーが変えるしな、ではなくて、ギターでつくるからこそできるコード進行だったり展開を、最初の時点でかなり詰めていきましたね。『二人三脚』もそうだったんですけど、アコースティックギターを中心に、ゆずのアンサンブルをさらに進化させたいという気持ちはありました。ここ最近は素材を渡してそれを料理してもらう流れがあったんですが、今回は僕らが料理したものを柱に、そこに肉付けしたりスパイスを入れるようにアレンジが重なっていく。そんなイメージです。

——歌についても同様ですか?

北川:そうですね。『終わらない歌』のときも少し話しましたが、いままでと違う歌い方や表現方法にトライして。いままで以上に丁寧に曲を深く解釈したうえで、歌入れに挑んでいきました。

——具体的な楽曲制作について聞かせてください。さきほど出てきた『みそら』や『いっぱい』は、アルバムの“陽”の部分にあたる、かなりストレートな曲という印象を受けました。一方で社会風刺的ロックナンバー『た Ri ナ ぃ』など、かなり振れ幅の大きい曲もあったり。

北川:時間をかけてつくっていたので、反作用的につくっていた感覚ですね。先に『た Ri ナ ぃ』をつくっていました。新世界ツアー中、横浜に戻ってきたらスタジオで曲をつくって、自分で勝手に納期を決めたりしながらやってたんです。その中で、どちらかに偏らない、両側面の自分がいるなと。一方では足りないし、いっぽうではいっぱいだしと。そんな反作用でつくっていきました。『みそら』という曲は、半分遊びでつくっていたというか。ドレミファソラシドでいうミソラっていう音階をサビでやってみようと思って、最初は♪ミソラ~って歌ってたんです。そこから「あ、“ミソラ”って“美空”だな」とか思って。突然できたというよりかは、日々音楽と一体となって過ごすなかでポロポロ生まれたものをスタジオで積み重ねていった感じですね。

——大衆に向け発信していく『終わらない歌』や『かける』といった曲がある一方で、『た Ri ナ ぃ』などアルバム曲ならではのサウンドやメッセージは異彩を放ちますね。

北川:変な話、タイアップソングの中で風刺曲を描くのは非常に難しくて。もしくは、コンセプトのある世界観の中で現実的な風刺を描くのも同じくで。ここ最近で、ここまで入り込んだ感じの曲はあんまり書いてなかったかな、アルバムの中に“毒”を盛りたいというのはデビューのときから一貫してある思いで。まあ、最初は毒ばっかだったんですけど(笑)。無理やり書くというより、無性にこのテーマを書きたくなった自分がいて、トライしていった感じです。

——サウンドの構想もある程度想定していたんですか?

北川:俺が最初につくってたときのサウンドは、もうちょっと“いなたかった”んですよね。まさに自分が好きなロック感だったんですけど、それだと少しイマイチで。時代の中での社会風刺を歌いたいのに、サウンドは自分がよく聴いていたサウンドというのは違う気がして。なので、そこは若いアレンジャーに自分がいかないサウンドまで突っ込んできてもらって、やり取りしながら進めていきましたね。

——メッセージ自体は決して軽くないんですが、純粋の踊りだしたくなるようなポップさも含んでいます。

北川:そうなんです!元々グラムロックが大好きなので、こういう曲だからこそ余計に軽やかにいきたいといか。忌野清志郎さんもそうだったんですけど、風刺のときこそ楽しげに腰を振っていた気がして。“そんなの関係ねえよ!”みたいなロック感というか。そういう要素が自分の中では強いのかなと思いました。

——“毒要素”でいくと、岩沢さんの『いつもの病気』もそれに分類されますね。

北川:シングル曲を中心に曲順をつくっていくなかで、『いっぱい』や『みそら』みたいな曲以外に、岩沢のそういう独特の毒感がほしくなって。アルバム制作中、ほぼ毎日岩沢の曲を聴いてたときがあって(笑)。そのデモ音源の中から、この『いつもの病気』が合うんじゃないかなと思い、進めていきました。

岩沢:北川さんからの他薦で、録ってみないかと話がありまして。アルバムに必要な要素として、そういう曲のリクエストなんだろうなというのはすぐにわかって。初期のゆずに多い、アコースティック系でわりとラフでお気軽なもの。凝ったアレンジの曲が多いアルバムのなかで、こういうシンプルなものも必要だなと思いましたね。

北川:アレンジに厚みのある曲が多かったので、すっきりする音像のものがいいなと。ちょうどそのとき二人参客のリハをやっていたのもあって、そういう弾き語り感のあるものを入れたいなと思いましたね。

——同じく岩沢さん作詩・作曲の『夕焼け雲』も、情景が浮かび心に染みわたるあたたかい楽曲です。

北川:これは岩沢からの提案で。全体のアルバムの流れをみたとき、あと一曲、岩沢の曲がほしいなと思っていて。最初に俺が提案した曲もあったんだけど、岩沢からこの曲がいいんじゃないかと持ってきてくれたのが『夕焼け雲』でした。

岩沢:自薦でした。全体を通してすごく凝ったアレンジが多い中に、シンプルなものが必要だなと思ったので。…アルバム聴くのって、長旅なんですよ。その道すがら、ゴールにたどり着くための屋台骨を支える、サービスエリアのような曲になったんじゃないかなという感じです。絶妙なポップさといいますか、曲順も一番いいバランスで置けたんじゃないかな。

——たしかに。『TOWA』からの流れで聴くとすごく安心するというか、素晴らしい流れだと思います。

北川:ずっと前から言っていることだけど、曲順はすごくこだわっていて、その流れによって曲の聴こえ方が全然変わってくるのがアルバムの面白いところだなと思う。例えば『夕焼け雲』が1曲目だったら、なにか違うなと。だけど『TOWA』の後に置くことですごくいいバランスになりました。

——そのバリエーションの中で、全体を統一させる大きな役割を担っているのが、アルバムタイトル曲『TOWA』です。今回、コンセプトを決めず楽曲制作を行ってきたなかで、“TOWA”というワードはいつでてきましたか?

北川:曲をいくつかつくっていくうちに、パーソナルな曲がある程度いっぱい出てきて。そういう曲だけをつくるのも、飽き性なので飽きてきて(笑)。なにかもうちょっと、表題曲であり柱になるものをつくりたいなと思ったときに、ふと出てきたのが“TOWA”でした。

——自身のどんな心境や想いから湧いてきたものなのでしょうか?

北川:自分はありがたいことに、昨年子どもを授かることができて。なにか…自分の中で、未来に対する想いが変わったんです。もちろん、いままでも未来への想いや願いは歌ってきたんですけど、これまでになかった違う未来を、子どもを通して感じることが増えました。

——具体的にはどのようなことですか?

北川:日常にある何気ない話題やものごとにしても、肯定的に思うときもあれば、以前よりシビアに思ったり、怖かったり不安になったり。いままで聞き流していたニュースがずっと気になってしまったりとか。モノの見方が変わったんだと思います。その自分が見えているものを多くの人とリンクできるようにつくったのが『TOWA』です。自分だけの未来じゃない。この身がなくなっても、次の世代に手渡して、続いていく未来なんだと。そんな未来に対して、自分にはなにができるんだろうと。震災のときにも感じたんですが、自分にできることってそんなにたくさんはなくて。僕は、未来に対して残していきたい想いを楽曲に込め、音楽で表現したいと思いました。

岩沢:出てくるべくして出てきたタイトルという印象ですね。『二人三脚』を一緒につくった時も『OLA!!』や『終わらない歌』も、テーマはブレてないんですよ。普遍的で変わらないもの。そういうメッセージは一貫していたので、『「TOWA」ね、なるほど』という感じで。すべてがつながった感じでしたね。

——岩沢さんは“TOWA”という言葉にどんな想いを込めますか?

岩沢:アルバムって、成長過程というか、写真のアルバムと一緒で、その年になにがあったとか、小さい頃はこんな格好してたなぁとか、写真めくりながら思い返すような、まさに“アルバム”なんですよ。そういう意味では、また新しいアルバムをつくれたことは素直に嬉しいし、またさらに嬉しいのが、この先、何年後かに『「TOWA」のときってこうだったよね』みたいな、それぞれの人にとってそういうメモリアルな存在になるんですよ。『「TOWA」のとき、中学生でした!』みたいな出会いが単純に嬉しいし、それをずっと続けてきている喜びが大きいですね。

——『TOWA』と『終わらない歌』の2曲が、楽曲群をひとつに結びつけ、この作品の大きなテーマとして存在している気がします。

北川:そうですね。つくっているときからこの2曲はアルバムの柱になるなと思っていて。『終わらない歌』は、例えばラブソングであったり応援歌だったり、キャッチーなテーマではなく、すごく大きなものだし、最初は届きにくい部分もあるんじゃないかと思っていたんです。でも「めざましテレビ」テーマソングからはじまり、音楽番組での歌唱や二人参客ライブ、そして今回のTOWA-episode zero-ツアーを通して、スルメのようにじわじわと皆さんのもとに届いていって。この曲は僕らにとってもファンのみんなにとっても、ともに歩んでいけるような、大切な曲になったんじゃないかな。

——そういった“歩み”というテーマでは、今回弾き語り曲『二人三脚』がバンドアレンジで収録されています。

北川:今回のツアーでは音楽監修という立場でご一緒しているキーボーディストの斎藤有太さんと話していて。前回の『友~旅立ちの時~』じゃないですけど、一緒に旅に出るバンドメンバーとレコーディングすると絆が深まるよねという話題から、今回もそういうものをつくりたいなと思いまして。そのための新曲というよりかは、『二人三脚』って、自分たちのなかで思い入れのある曲だし、こういうテーマの曲こそ、ツアーでまわるみんなとレコーディングするのがいいんじゃないかなと思って提案しました。結果、有太さんが弾き語りバージョンと全然違うアプローチのデモをつくってきてくれて。それがすごく素晴らしくて、みんなでほぼ一発録りでレコーディングしました。

岩沢:実力はもちろん、ゆずをよく知ってくれているメンバーなので、みなさんゆず仕様にいいように工夫してくれるというか。レコーディングというよりは、タイトル通り、まさにセッションという感じです。

北川:この曲をただアレンジするだけならアルバムに入れる必要ないし、弾き語りだけでいいかなと思ってたんです。だけど『二人三脚』をつくったときに、これは僕と岩沢の二人三脚でもあるし、いろんな人とたすきを結んでいく、ゆずと誰かの二人三脚でもある。だから、この曲で仲間たちと“二人三脚”できたのは、すごくよかったですね。

——そしてアルバムを締めくくるのは『終わりの歌』です。『終わらない歌』で始まり『終わりの歌』で終わるという、物語の完結曲としてふさわしい楽曲だと思います。

北川:洒落ですよね(笑)。終わらないものもあれば、終わるものもあるっていう。最初は『終わらない歌』のカップリングにしようかなと思ってたんですよ。『終わらない歌』なのに、カップリングは『終わりの歌』かい!みたいな(笑)。だけど『二人三脚』ができて、時間が経つうちに、この曲はアルバムの終わりだったらおもしろいなと思って。当時、伊勢佐木町で弾き語りしていた頃の勢いや若さは取り戻せないかもしれないけど、そのガキにはわからない痛みや喜びや情けないものがあって。アラフォーの弾き語りじゃないですけど、そういう“今の”ゆずの弾き語りみたいなものを入れたいなと思いました。

——この作品を“原点”と位置づけるのは簡単ですが、弾き語り曲でも新たな挑戦曲でも“深化”という言葉が相応しいなと思います。

岩沢:そうですね。最近、自分たちができることの少なさに喜びを感じているというか。結局、ギターを持って歌うことをやっているだけなので。それがより研ぎ澄まされていく感じで、原点に戻るというより、進んでいくイメージですね。

北川:弾き語り曲ひとつとっても過去の焼き直しみたいな感じは全然しなくて、すごくフレッシュな気持ちでこのアルバムをつくれましたね。まわりまわって新しいモノって巡っているから、いまの自分にはこれが新鮮というか。そもそも、エンターテインメントすることや新しいサウンドをつくること自体が、自分の原点ですよね。新しいものを生み出していきたいという気持ちはずっと変わってないし、挑戦していく気持ちも変わらないです。