ゆずスペシャルインタビュー

― 前作『LAND』から約9ヶ月という、ゆず史上最短でのオリジナルアルバムリリースになります。聴かせていただきましたが、また新たな扉が開けたという感じがします。

北川
ありがとうございます。『LAND』というアルバムの世界観を、作品と全国ツアーと通してやり切ることができたというか“いいものができた!”と手応えを掴むことができたんです。その創作意欲が消えぬまま、ありがたいことにタイアップのお話をいただきつつ、『新世界』に繋がってきましたね。

― アルバムタイトルに込められた意味はなんでしょうか?

北川
懐かしく、すごくレトロでありながらも、すごく新しいもの。今回、僕たちが目指すところを総称したものが「新世界」です。僕らがもともと持っていたものを“フォーク・エンタテインメント”って言っていたんですけど、それよりもさらに進んだ“ネオフォーク・エンタテインメント”でやっていこうという感じが「新世界」という言葉で表現できるなと思いました。現在とまったくかけ離れた未来というよりは、過去と現在と未来がしっかりつながっていて、懐かしいものをもう一度見直したりしながら新しいものに進んで行く。そういう地に足の着いた『新世界』を描きたいなと思ったんですよね。まだ曲も全然出そろってなかった時期だったんですが、そのコンセプトだけはきっちりありました。
岩沢
『LAND』がすごく壮大なテーマでコンセプトを固めた作品だったので、この次はどうなるんだろう? っていう気持ちはありました。この先にどんな世界があるのかなという、ぼんやりとした部分が自分の中にあったんですけど、『新世界』という言葉によって「そうですよね、新世界ですよね」という感じで、今やっていることとやろうとしていることがドンピシャでハマった気がしました。
北川
『LAND』のときもそうだったんですけど、なにかキーになるような曲によって次の方向性が見えたときに、そのテーマを総称する言葉が生まれてくるんです。『LAND』のときはテーマがそのまま曲になったんですが、今回は前回よりも違った意味で振り幅が大きいので、ひとつの曲で表現するというよりは、それらの楽曲を総称する言葉がいいなと思ったんです。

― 『新世界』のテーマである“懐か新しい”については、これから楽曲を紐解いていくなかでより深くお話を伺えればと思います。まず1曲目の「ヒカレ」。日本生命CMソングとしてオンエア中ですが、ストレートな想いが詰まった楽曲だと思います。この曲で大事にしたことはなんでしょうか?

北川
この曲で大事にしたこと…今更ながらの“等身大”でしょうか。“等身大”という言葉はあまりにもありふれているし、楽曲を作るその都度で思うんですけど、自分が37歳になったときに、もう一度“等身大とはなにか”と自分自身に問いかけて。「新世界へ進むんだ」と突き進んだり、踏み出していく中で、葛藤している自分、もがいている自分がたくさんいるんですよ。そういう自分をなにかさらけ出したいという思いは少しあって。そういう自分を導いてくれる、今はまだ光らない、悩んでる自分を前に進ませてくれるような“願い”を込めて作りました。

― CMとの映像がとてもマッチしています。

北川
CMに出演している高橋大輔選手もその時期に怪我で苦しんでいたり、ほかにも伊藤みき選手、浅田真央選手など、表舞台として光は確かにあるんだけど、影で葛藤しながら、もがきながら進んでいる方々の姿と自分を照らし合わせました。
岩沢
この曲については“王道感”と言いますか。ゆずの得意な分野をより濃く出せればと思いながら作りました。ものすごく難しい曲ということではないので、堂々とゆずらしく出しきることができればいいなと思っていました。

― 王道感とハッキリ言える強さがゆずにはありますよね。続いて「雨のち晴レルヤ」。“懐か新しい”を象徴する楽曲であり、アルバムの柱にもなっていますね。

北川
アルバムの中で一番大きな柱になったんじゃないかと思います。アルバムの柱になる曲って、いつもわりとアルバム発売に近い、遅めのリリースになったりするんですが、今回は先陣を切ったという感じで、じわじわと浸透していった感じですね。

― さまざまな要素を兼ね備えていると思うのですが、“複雑な曲”という捉え方でいいんでしょうか?

岩沢
複雑というのも少し違う気がしますね。何色でもない曲。曲調も、マイナーでもなければメジャーでもない。リズムも、三拍子も四拍子も出てくる。懐かしくもあれば新しくもある。そういうどちらでもなく…不思議な曲ですよね。今までのゆずの引き出しにあるものも入ってますし、ないものもあります。なんにせよ、複雑に聴こうとせず、すんなりと聴いていただいたほうがスッと入ってくると思います。その中で、新しく挑戦していることが垣間見えると思います。
北川
アルバムコンセプトである“懐か新しい”というものが、初めて形になったのがこの曲ですね。

― 間奏に登場するドヴォルザークの「新世界より」が非常に良いアクセントになっていますが、奇しくもアルバムタイトルが『新世界』という。物語として繋がりを感じます。

北川
「新世界より」を取り入れたときにはそこまで意識していなかったんだけど、頭のどこかで“新世界”っていうワードが残っていたんだなと思いました。この曲の間奏に入っている「新世界より」という曲の存在自体が、懐かしく新しいという要素があると思っていて。西洋から入ってきたクラシックが、今は日本の童謡になって我々の中に入っている。それを次は、僕らがポップスとしての使い方をするっていう、そういう音楽の捉え方がコンセプトに繋がっている気がします。

― 続いてドラマの挿入歌にもなっている「よろこびのうた」。アコースティックギターと弦楽四重奏の演奏がとても印象的です。

岩沢
デモを作る段階でなんとなく思いついたものが、ビートルズの「イエスタデイ」みたいに弾いたらどうなるんだろう? ということでした。そこから元々あったパーツを録っていったらいい感じで、さらに弦楽四重奏を入れたらどうなるんだろう? と思って、蔦谷好位置くんにお願いしたんです。そして、蔦谷くんがアレンジしてきたものから「こんなメロディはどうだろう?」と提案があったりして。元々あったマイナー調っぽい曲が、わりとパッと開けたんですね。そこからまたアイディアが出てきて、色々やりとりをしていきながら完成に至りました。

― シンプルな編成がほかの曲と並べたときに際立っていて感動的です。リズムをいれるという考えはなかったんですか?

岩沢
なかったですね。最初からその空気感で、弦で押し切ろうと。もちろん、やりようはいくらでもあったと思うんです。最後に転調してドラマチックにしたりとか…。でも、それをしないほうがこの曲って良い意味で浮くなと。ある種の狙いを目指して作りましたね。
北川
僕もリズムについては入れないほうがいいなとは思っていました。余計なものは入れずにした方がこの曲が生きる気がしたんです。ちょうどこの曲の製作時期にポール・マッカトニーのライブを観に行ったんですが、そのライブを観て得たたくさんのヒントが、この曲には散りばめられていると思います。今回のアルバムは本当にさまざまな曲が多くて。その中で「よろこびのうた」はシンプルなものを…でもただシンプルにするんじゃなく、一つ一つのパーツをしっかり突き詰めていって、また個性的なものが作れればいいなとトライしました。

― 4曲目は「ユートピア」。これはすごい曲ですね。「雨のち晴レルヤ」の血筋ではないですけど、まさに“懐か新しい”。パッと聴いた感じでは“和”なんですけど、かなり激しいビートが鳴ってるなと思いました。

北川
これは最初に原型をワンコーラスくらい作ったときから、ヒャダインこと前山田健一くんとやろうと決めていました。自分の中で“ネオフォーク・エンターテインメント”というのを勝手に考えていて。これは現代における“ネオお囃子”だと思ったんですね。新しいお囃子の表現をしたいな、どういうふうにできるんだろうというイメージをもとに、前山田くんといくつか案を出しあいながら詰めていった感じですね。言葉の置き方や使い方も懐かしい言葉を使いつつ、この時代でも響く置き方を考えましたね。

― 言葉のサンプリング感がとても“今っぽい”です。

北川
その言葉のニュアンスが、最終的に「ユートピア」という曲名に集約していくよう構築しました。

― 賑やかなのにカオティックな雰囲気を出していますね。

北川
お祭りの狂気感って、なんだか好きなんですよ。楽しいことの中に潜む悲しみを癒やそうとする気持ちや、嫌なことを忘れようとする気持ちだったりから生まれる狂気感が。そういう“お囃子トランス”みたいなものをやりたいなと。トラックダウンのときもかなり細かいところまで音を詰めていて。ちょっとしたことでバランスが変わって面白くなくなったりもしましたね。

― その流れからの「表裏一体」です。この曲は全体を通して歌の緩急やピッチ感が全然違う印象があって。聴いていて気持ちいいのと気持ち悪いの中間みたいな。

北川
結構ギリギリですよね。BメロからサビにかけてBPMが10上がってサビびにいく、っていうのは通常のポップスではやらないし、やらないほうがいいのかもしれない。でも、三者三様で作っている曲をミックスするときに、思い切ったトライはやってみたいなと思いました。結果、それがすごく新しい形として表現できたんじゃないかなと思ってます。

― ヒャダインさんとのやりとりはスムーズだったんですか?

岩沢
そうですね。やはり「REASON」があってのこの曲でしたね。ヒャダインから返ってくるものも「ああ、こうくるだろうな」っていうのも「REASON」を作ったおかけでなんとなくわかって。改めてやってみてわかったのは、ヒャダインは“無駄にしない”ということ。僕らが投げたフレーズや素材を1から作り直すんじゃなくて、「このパターンもありますよ」と常に提示してくれて。とても小難しいことをしているようで、実は曲としては繰り返しているんですよ。とても面白いです。

― アニメ主題歌ならではの、アバンギャルドな攻め方をしていますね。

北川
アニメタイアップというものがあったことで、我々は結構楽しめているとうのもあります。単純にゆずだけの曲というときにはトライしないようなことも、「アニソンをゆずがやるなら」っていう振り切れ方ができたというか。それが結果的に新しいゆずになっていくというプロセスは楽しいですね。