“2人組フォークデュオ”というイメージが世間の中でいまだ強いゆずが、昨年末にアイドル系や電波系音楽を手がける音楽クリエイター・前山田健一とコラボレーションすることを発表した際、ファンならずともその意外な組み合わせに賛否の声が上がったに違いない。その中で誕生した楽曲「REASON」は、これまでにない制作アプローチと楽曲構成、そしてアニメ『HUNTER×HUNTER』の世界観との完璧なマッチングにより、CD・ダウンロード配信は近年の作品では頭一つ抜け出し、フルサイズ公開されたMusic Videoの再生数は現時点で600万回を超えた。まさにゆずの新たな可能性を示した傑作といえるだろう。
あれから約1年。再びゆずと前山田健一が奇跡の邂逅を果たす。楽曲名は「表裏一体」。インタビュー中にもあるように“「REASON」を超える”ことを目標にした3人は、前作で得た経験値を昇華させ、新たなエッセンスを加えることによりそのハードルをいとも容易く超えていった。一度再生ボタンを押したら緩めることのできないスピード感と予想できない曲展開、アコギ、バンドサウンド、打ち込み音が融合し、壮大なストリングスに包まれながら畳み掛けていく鋭い言葉たち。ソリッドかつ洗礼された音色が、聴く者を螺旋の遥か先へと誘ってゆく。
——「REASON」に続き、“ヒャダイン”こと音楽クリエイター・前山田健一さんとの共作第二弾となる最新シングル「表裏一体」ですが、前作以上にソリッドで、展開のあるアップテンポなナンバーに仕上がっていますね。本筋に迫る前に。お二人にとって新たなチャレンジとなった「REASON」は、今振り返ってみて、どんな作品になりましたか?
北川悠仁 「REASON」はゆずにとって曲の展開、音楽の方向性、制作のプロセスも全部含めて未知の領域ともいえる楽曲だったんですが、その楽曲を良いかたちで作品にできたと思っています。そしてできあがったあと、その未知なる領域をファンの皆さんはどう受け取ってくれるんだろうと期待しつつ、少し不安もあったんですけど、その不安を一蹴するかのように、皆さんがこの曲を好きになってくれて。YouTubeでのMusic Video再生数も600万回を超えたり、自分たちが新たな一歩を踏み出す上で大切な作品になったし、その後の新たな挑戦たちの背中を押してくれた楽曲になったと思います。
岩沢厚治 「REASON」は本当に手探りで、「この曲とこの曲が一つの曲になるんだろうか」っていう不安もあったりしたんですが、ヒャダインくんの手腕の素晴らしさもあり、とても個性の強い3曲が、ものすごく良くまとまったなと。ヒャダインくんは基本打ち込みがメインで、僕たちはアコースティックギター中心に生音を大事にしていて、そこもうまく合致して、すごい曲ができたなと感じています。実験的でもあったし、音楽的には複雑なことをやっているのに、思いのほか聴き手の人たちがすんなりと受け入れてくれたのが意外でした。完成したら「こういうやり方もあるのか」という新しい発見もありましたね。
——その“新しい発見”として見い出した、複数のサビを組み合わせて1曲に仕上げる手法は、「表裏一体」でも採用されているんですか?
北川 はい。まず、「REASON」でうまくいったなって思う成功例の一つに、最初に大きく旗を振ることだったり、曲の種になるようなテーマやキーワードを持つことが大事だなと。作品をうまく構築できていったのも、もともとあった種というか、ブレない軸があったからだと思いました。なので「表裏一体」でも、まず自分はその部分を大切にして、メインになるサビパートと全体のテーマを、自分が旗振り役として担いました。新しい挑戦という意味では、前はそれぞれのパーツをどんどん組み合わせていく感じだったんですけど、「表裏一体」ではそれぞれが作ってきたパートからさらに踏み込んで一体化させた感じがしています。「REASON」より、さらに三身が一体となったようなイメージですね。
岩沢 今回作品のテーマとしてあったのが“シリアス”で。そしてリーダーから出てきた“裏・表”“コイン”といった、異なるもので対になるキーワードがあって。まずはそれを念頭に、思いのままにワンフレーズずつ作ってみようという感じでしたね。
——テーマはハッキリとしていたんですね。“表裏一体”という象徴的な言葉はどこから出てきたんですか?
北川 “表裏一体”という言葉自体、自分の中で以前から思っていた大切なキーワードだったんです。「LAND」(11th Album『LAND』収録曲)でも歌っていることでもあるんですけど、一つの側面で物事は語れない、良いことも悪いことも含めて、その上でどうするか、ということは、ずっと歌いたいテーマではありました。ゆずの関係性という意味でも繋がりますしね。2人とも全然違うタイプですし、それが合わさってどうなっていくのかという。そういうことを考えていたときに、ふと“表裏一体”という言葉は、『HUNTER×HUNTER』とゆずを繋ぐ重要なものだなと思ったんです。
——作品と楽曲のテーマが一致したということですか?
北川 ゴンとキルアの関係性も“表裏一体”ですよね。あと、普通のアニメだと悪者は悪者なんですけど、『HUNTER×HUNTER』では少し違う気がして。ひとつなにかを掛け違えたことによって違う道に行ってしまったり、だけどそれって紙一重の部分があって、まさに“表と裏”なんじゃないかなと思ったり。
——いろいろな境遇や物事に通じてきますよね。
北川 でもいざ“表裏一体”という言葉が出てきたときに、どうやって歌えばいいのかなと。歌に乗せるのが難しいワードじゃないですか。最終的に歌詩とメロディができあがったのはレコーディングの初日でしたね。それだけプレッシャーもあったりして悩んでいたときに、自分の中でメロディと言葉が一緒になって、いまのサビが放たれたんですよね。その瞬間、これはいい曲になるんじゃないかという予感がしました。
——岩沢さんは制作手法についてどんな感触でしたか?
岩沢 前回よりもテーマは明確になっていたし、「ここがBメロになるんだろうな」っていうのを想定したり、「きっとこれも繋がるんだろうな」って、的確にいくつかのフレーズを作って、ヒャダインくんに丸投げしました(笑)。とはいえ、北川が作ってきたフレーズとのマッチングも良くて。スタートの段階から、ゆずが提示するものとしてはまとまったものができた感触はありましたね。このやり方は、このチームじゃないとできなかったんじゃないかと思います。
——“表裏一体”という言葉にはどういう印象を受けましたか?
岩沢 サビが曲タイトルから始まるじゃないですか。「表裏一体」って。いろんなところに展開がいくんですけど、すべてがそのサビ頭に集まって向かっていく感じがして。それがすごく大きかったというか。あの“表裏一体”という言葉があって、曲全体が引き締まっている気がします。
北川 本当にその通りだなと思う。“表裏一体”という一つのキーワードが全部を結んでいったなと思うし、最初にみんなが持ちよってきたものからさらに展開していくんですけど、3人とも“表裏一体”という言葉に影響を受けながら進めていった感じはありました。
——制作にあたって、ヒャダインさんとはどういったお話をされたんですか?
北川 ヒャダインとも話したのは、僕らが目指したのは<「REASON」を超える>ということ。その超えるっていうのは、なにか真新しいことをやるとかではなく、前回は非常にアグレッシブで、とにかく新しいものを、っていう感じがあったけど、今回はさらなる進化というか、「REASON」の先にある世界観に踏み出すみたいな。技術というよりは、自分に対してそれぞれがハードルを上げて、妥協をしないで、どこまで自分が持っているより良いものをだしていけるか、ということに純粋に向き合った気がします。
岩沢 さきほども言った“シリアス”であったり、ソリッドな曲を、ということは話しつつ、今回は生の楽器をもっと入れていいんじゃないかという案が出ましたね。生でやるとすごく大変な曲ではあるんですが、そのおかげもあって、結果的にライブ感や厚みのある曲になりました。前回よりもさらに踏み込んだものになりましたね。
——最初に投げたものがヒャダインさんから返ってきたときの印象はいかがでしたか?
北川 そうだよね、その感じがやりたかったんだよねって感じで、ドンピシャに近いものがありましたね。正直「REASON」のときよりもやり取りの回数は減ったんだけど、一回一回のお互いが返すものの濃さが違った。言葉のやり取りもそこまで多くはなかったです。大きく手直しすることもなかったんじゃないかな。
岩沢 いかようにもなるなと思いましたね。このままでもいいし、別のいろんなアイディアがたくさん出てきました。テンポやらキーやらを変化させては戻り、また変化させては戻りを繰り返して、一番いいところに落とし込めました。自由度は高かったですね。でもあくまで、最終判断は聴き手側に立って、聴き心地を重視した気がします。
北川 テンポに関しては、僕が元々サビで作っていたテンポで始まるとちょっと速くなりすぎるなと思ったので、1番のAメロ・Bメロからサビにいくときにテンポアップを仕掛けてます。普通はテンポが決まったら最初から最後まで一貫するものなんだけど、サビでテンポが上がるのは斬新な仕掛けだと思います。これはゆずサイドからの提案だったんですけど、非常に効果的だったのかなと思いました。
——先に放送されたTV Size versionだけを聴くのと、後にフルサイズで聴くのでは楽曲の印象が随分変わります。これも「REASON」に続き、なにか考えていた構成だったんですか?
北川 僕ら自身が、良い意味で“タイアップで遊ぶ”ということはあったかもしれないですね。テレビアニメや映画の予告、そして劇場でのフルサイズと、皆さんに曲が届くまでにいろんな段階があるんですね。僕らはそういういろいろな仕掛けをするのが好きなグループなので、最終的にCDやダウンロードで聴いたときに「え、こんな曲だったの!?」と、みんながワクワクするような曲にしたいなとは思っていましたね。
——「REASON」以上に“蓋を開けてみたらビックリ!”な楽曲ですね。
北川 最近僕が感じているのは、我々は常に「新しいものを!」という感じで突き進んでいるんですけど、実はこれって、昔からあるクラシックと同じなんじゃないかなと。「表裏一体」に至っては、楽譜を見てみるとFメロとかも出てきてくるんですが(笑)、それだけ自由な展開で曲を作れているということだと捉えています。
——サウンド面でポイントになった部分はどこでしょう?ギターであったり、歌であったり。
北川 前回は基本的に、僕らが作っていった基礎に対してヒャダインが持っている音をぶつけていくような感じだったんだけど、さっきも岩沢くんが言ったように、今回はドラムやストリングスを生でトライしているんですね。これは僕らとヒャダインにとって新たな進化形だと思っていて。僕らは元々、ヒャダインのある意味デジタルな音色を含めて欲しがっていたんだけど、今度はデジタルなものから、それをアナログに戻していく感覚とか、生の化学反応みたいなものを欲しがりましたね。
——曲が進むにつれてストリングスが随所に効いてきて、とても印象的でした。
北川 今回ストリングスに関しては。門脇大輔くんという、若いミュージシャンにやってもらったんです。彼らが合わさったことによって、ストリングスの中にも、いままでのポップスにはなかったような攻撃姓やアグレッシブ感も兼ね備えられたんじゃないかなと思ってます。楽曲のドラマチックな部分をストリングスが支えてくれてる感じはします。
——岩沢さんはいかがですか?
岩沢 「REASON」のときもそうだったけれども、いわゆる場面転換が凄まじい。凄まじいんだけど、やっぱり1つの曲なんですよね。そのさじ加減というか、AメロからBメロに移り変わるところとか、場面は変われど、1つの曲を歌っているという意識はずっとありました。ここはDメロだからこういうテンションに変わるとか、めまぐるしく変わる展開をうまく表現しようとは思いましたね。
北川 歌でいうと、昔は一度デモを作ってしまうとなかなか本番まで歌わないことが多かったんですけど、最近は本番に向けて何度も歌い込みをしていくんですね。アレンジの変更だったり、曲のやり取りが行われる度に歌ったり。その中で歌が自分の中にしっかり入っていっているので、レコーディング自体の歌はすんなりやれたなとは僕は思いましたね。その場面ごとのある種キャラクター性を出せるように歌ったりして、楽しかったです。
——歌でいうと、2番で垣間見れるお二人の“歌の応酬”は圧巻ですね。聴いていてドキドキします。
岩沢 そこは前山田くんの“妙”というか、彼ならではのアプローチでしたね。出てくる言葉が“抗う”とか、また難しくて(笑)。前山田くんが歌っている仮歌から誠意が伝わってきましたね。「(キーが)高すぎて死にそうです」と(笑)。これはちゃんと歌わねばと思いました。面白い試みだったと思うし、思いつきそうで思いつかない、素晴らしいコラボレーションでした。
——改めて、前山田さんと再タッグを組んだ感触はいかがでしたか?
北川 “表裏一体”という言葉には前向きでも後ろ向きでもなく、でも人間の本性だったり狂気的なものを孕んでいると思っていて。そんな根底的な性だったり本質なものを、この曲の中でなんとかあぶり出せないかなと感じて。そういう意味では、2番のAメロの構成も含めて、歌詞の世界観でそれができたし、これはヒャダインと一緒にやってきた力が大きかったですね。彼の才能の懐の深さを感じました。ただ、「REASON」のときに得た、岩沢くんと僕がかけ合いで歌っていくやり方は面白いなと思っていて。「REASON」で自分たちが吸収できていたので、今回はすんなりとやれたなというのはありますね。
——歌詩の話が出てきましたが、「REASON」では友情をテーマにした曲だったじゃないですか。でも「表裏一体」では一転、曲調だけでなく、歌詩も尖っていて、危うい感じもするスリリングな内容だと感じました。大きなテーマ性を含んでいるなと。そして3人それぞれが持ち寄ってきたであろう言葉が、一貫しているのが凄いと思いました。
岩沢 良い意味でタイアップのことを意識せず、北川や前山田くんと話したテーマだけで書いてみようと取りかかりました。あまりいろんなことを考えて寄り道してしまうと、言葉がつまらなくなるんじゃないかということを「REASON」制作中に知ったので(笑)。あんまり考えすぎないほうがこのチームでやるのにはいいんじゃないかと。何度も言ってしまいますが、「REASON」があってこそできた曲ですね。
北川 歌詩の新しい試みとしては、いつもは歌詩を作ってからみんなに見せるんですよ。それが今回は、歌詩を書く前にプロトタイプのような…どういう曲にしたいのかということを書き綴ったものがあって、それを事前にヒャダインに渡したんです。そこでいま自分が紡ごうとしている言葉の原型をヒャダインや岩沢くんに見せて、そこからインスピレーションを受けて新たなものが生まれたらいいなと思いました。
——「REASON」では曲を構築するうえで、“wo woo〜”というフレーズが大きな役割を果たしていましたが、「表裏一体」でも同じ接続的なフレーズが登場していますね。これは意図されたんですか?
北川 そうですね。やはり複数曲の関連性として、一つメインとなるイントロメロディみたいなものを作りたいと思って。実はDメロでそのイントロメロディを生かしたフレーズがでてきたりとかもして。作ったものをすべて無駄にせず曲に昇華できたと思います。
——今年発売されたゆずのシングルを振り返ると、本当に似た曲がないんです。「REASON」で始まり、「友 〜旅立ちの時」や「雨のち晴レルヤ」を経て、この「表裏一体」で締めくくるというのは、非常にクリエイティブに富んだ1年になったんじゃないかなと思います。
北川 ツアーもやっていた中で、やはり時間との闘いはありました。でもやっぱり、たっぷり時間を与えられたからといって曲ができるわけでもなく、集中力を持っていいものを作っていく1年だったと感じました。すべての作品に対して闇雲に作っていくというよりは、「こうしていきたい」という、ゆずとしての強い意志、テーマ性をはっきり持ててやれていたなと思うし、そういうやり方を自分たちがすごく楽しめているなと思いますね。でもここ数年間、自分の曲の作り方は実は一貫していて。振り子の原理と言うか、いろんなスタイルに自分なりに挑戦して行く中で、相互に楽曲たちに刺激を与えていく感覚があって。ほとんど音楽しかやってないんじゃないかってくらいの日々でしたが(笑)、楽しいクリエイティブなものをたくさん表現できたんじゃないかと思います。まだ続きますけど(笑)。
——岩沢さんは「表裏一体」が完成してみてのお気持ちはいかがですか?
岩沢 これからじゃないですかね。ゆずにとっては、ライブで表現していくときに、さあどうしたものかと。『HUNTER×HUNTER』とのコラボに関してもは、うまくアニメとの融合ができたんじゃないかと思ったし、「えっ、この曲がゆず?」っていう反応は「REASON」のときもそうだったように、逆に楽しみです。「こういうこともできるんだね」って捉えてもらってもいいし、毛嫌いしてもいい。それがすごく実験的であるし、気にはならないですね。
——ライブで聴くのがとても楽しみです。「REASON」のときも、これがどうライブで聴けるのかと思っていたのですが、蓋を開けて見れば、厚いバンドサウンドにレーザーを用いた圧巻の演出で、スケールの大きい世界観を体験することができました。
岩沢 あのツアー(YUZU ARENA TOUR 2013 GO LAND)で、本当の意味でようやく「REASON」が演奏できるようになりましたね。突拍子もなかった曲が、じっくり紐解いてみると「ちゃんと音楽になってるじゃないか」と気付く瞬間があるんですね。なので「表裏一体」も、これはこういう曲だったんだっていうのが、ライブで生演奏して歌ってみてわかるんじゃないかなと思います。今はレコーディングのみなので。
北川 またさらに表現するのが難しい楽曲だなと思いますね。制作の段階ではあんまり「ライブでどうするんだろう」っていうのは考えないんですね。でも出来上がったときに、どうするんだろうと(笑)。だた、「REASON」の手応えがあったので、前回を超えるようなプレイができるんじゃないかと思ってます。実は「REASON」よりもアナログ的な要素を持っていたりする曲なので、ライブでどんなものになるんだろうとワクワクしています。
——すでに来年にツアーが決まっていますね。おそらくこの曲も演奏候補に上がってくると思うので、いまから観れる日を心待ちにしています。
——カップリングには岩沢さん作詩・作曲の「値札」が収録されています。こちらは路上時代に演奏していたナンバーで、今回の収録にファンの皆さんの中でも驚かれた人も多いのではないでしょうか。これはいつ頃制作されたんですか?
岩沢 19、20歳くらいに作ったと思うんですけど、路上ライブをやるにあたって、とにかく曲数が必要だったんですよ。ライブするにも10曲以上ないとライブにならないので。その中で、どんどん曲を書こうという2人の決意のもとに曲を作って、その過程の中の1曲ですね。1st ミニアルバムに入ってる曲たちと同期でしょうね。決してエース級の曲ではなかったけれども(笑)。後にアルバムに収録されるエース級の曲ばかりライブでやってもバランスが悪いじゃないですか。もうちょっと“お耳を拝借”というか、軽めに聴ける曲という扱いでしたね。路上後期の頃にはもうやっていなかったかもしれない。
——今こうして話を聞く限りでも、激レアな楽曲だと感じます。
岩沢 それこそ本当に路上時代にしかやっていない曲なので、超蔵出し曲ですね。ただ、デジタル要素もあるゴージャスな「表裏一体」が1曲目にあったときに、もう少し温かみのある曲がないかと思ったときに、この「値札」に再会しました。改めて聴き直して、路上時代の曲なので非常に若さと、若気の至りが共存している曲だなと。今の我々の年齢になってもう一度紐解くというのはすごく新鮮で、ちょっとトガった、クソガキのフレーズを生かしつつ、もっと温かく。聴いていて愉快な音が足りないなと思ったので、そういうアレンジを心がけましたね。
北川 まさに「表裏一体」といった感じで、一番新しいものと一番古いものをパッケージとして合わせたときにどういうものになるんだろうと思いました。ただ、「表裏一体」は新しい要素もあるですが、自分たちが元々持っていたものも変えずにできたと思っていて。「値札」は歌詞を含めて、非常に自分の原点ともいえる曲だと思っていて、それを今の時代の中でやるとどうなるのか、ということは思っていました。
——ほかのミュージシャンの方が過去の楽曲を改めて世に送りだすときに、2つのパターンがあると思っていて。ガラッとアレンジや歌詩を変えるパターンと、元の楽曲の良さを大事に、+αでエッセンスを加えるパターン。「値札」は後者ですね。
岩沢 初期の曲でよくあるのは「これでいいじゃん」や「これで完成してるじゃん。これ以上なにを足せばいいの?」っていうのがとても多くて。その感覚を超えられないんですよね、どうしても。今回「値札」と改めて向き合ったやり方は、当時の僕らと今の僕らが“セッション”してるようなイメージでしたね。「どれどれ、おじさんたちに演奏させてごらん」みたいな(笑)。もちろん当時のような気持ちで歌ったり演奏するのは無理だと思うんですよ。でも「こうだったんだろ」と、気持ちをわかりきってたり、それを踏まえている自分がいたので、良い頃合いをもってセッションできたなと思います。
北川 歌詩の中に、若くて、まだなにもわかってねえくせに色々言ってるやつがいるなと思いつつ、でもそいつが言ってることって、36歳の自分にも響くなあと思ったり。岩沢くんが“セッション”という表現なら、僕は19歳の頃の自分たちと、音楽を通して会話をしているような感じでしたね。それが最終的に今の自分たちに昇華されていく気がしていく感覚がありました。
——無理矢理かもしれないんですが、その作業って、「雨のち晴レルヤ」に通ずる部分がある気がします。旧き良きものを、今のゆずが表現するという意味合いで。
北川 今のゆずの全体的な方向性としてあるかなと思ってます。旧きものを見直すことで新しいものが見えてきたり、新しいものに旧いものをかけ算することで逆に新しいものが生まれたりということを模索している最中。そういう意味では、自分たちがやっていることの同じ線上に「値札」はあるんじゃないかなと思います。
HUNTER×HUNTER Ver.には、アニメの声優さん4名がボーカルを務めるゆず提供楽曲「約束の唄」が収録されています。
北川 曲の原型を岩沢くんと2人で作ったんですが、最初から自分たち以外の人が歌うことはわかっていたので、少し自由に、物書きとして楽しみながらプロデュース感覚で取り組めましたね。
——現時点ではまだレコーディング真っ最中です。楽しみはありますか?
北川 今回の「約束の唄」は、1人じゃなかなか歌えない曲になっていて。重なる部分がたくさんあって、何人かで歌ってうまくいくように考えて作っていたんですね。なので、4人の声優さんたちの声が合わさって、どういうふうに化学反応を起こすのかが楽しみです。あと、最後までこだわったのは譜割りだったんですよ。メッセージ性もありつつ、言葉の乗り方の面白さみたいなのを追求して作ったんですが、それもあって、すごく難しいことになっています(笑)。
——(笑)。ここ最近だと「T.W.L」や「流れ星☆キラリ」「守ってあげたい」など、ゆずの曲をほかの方が歌うことも出てきました。ファンの人にとっては、こちらも違った楽しみ方ができるんじゃないかと思います。
北川 すごく思います。「約束の唄」も、いつかゆずでカバーしたいな。人が歌ってるのを見ると、「じゃあ俺も」って図々しい気持ちになったりします(笑)。