ゆずの輪 presents 二人参客 前夜祭〜にほんのうた〜in 山梨県・身曾岐神社 能楽殿
歌に祈りをこめて...ゆずが奏でる“日本の夏”

およそ15年ぶりとなる横浜スタジアム公演“二人参客”開催を前に、ゆずが山梨県・身曽岐神社 能楽殿にて前夜祭2daysを実施。過去に<にほんのうた>と題し同所にてコンサートを行った2人。今回はどんな内容で、どんなステージを見せてくれるのか。ここでは初日となる30日のライブの模様をレポートする。

毎回感じることだが、僕はゆずほど“晴れ男”の名がふさわしいアーティストはいないと思う。全国で猛暑日が続いた7月30日。ライブ会場となる山梨・小淵沢も最高気温36℃超えと青空が広がっていたが、開場を前に、16時を過ぎたあたりから突然の雷と豪雨。一時的に車に戻ったり、木の下に避難するファンを見ながら、このまま激しい雨が降り続けたら…と不安がよぎったが、開演を目前にした17時50分。雨足は徐々に弱まり、オープニング・アクトの篠笛奏者・佐藤和哉がステージに立つ頃には完全に雨は止み、微かな太陽の光が濡れた葉を優しく照らした。
木造の檜皮葺(ひわだぶぎ)、入母屋(いりもや)造りで建てられている能楽殿の舞台は、まるで巨大な鳳凰が羽を広げているかのような神々しさを放つ。佐藤の叙情的な篠笛演奏が終わると、本舞台奥の橋懸かりからゆずが登場し、最初のナンバーとして鳴らされたのは『3カウント』。もちろん、2人のみの弾き語りスタイルだ。

<期待通りの雨に打たれ 成す術もなく立ちすくんでる>という歌始まりが、まるでさっきまでの雨もすべて演出なのではないか? と思わせてしまう。まさにライブマジック。「どうもみなさんこんばんは! ゆずです! みんな、雨大丈夫? きょうはゆずとして初めてかな、ラジオ体操をやめておきました。雨で体調悪い人がいたら、言ってくださいね!」と北川悠仁の挨拶を挟み、続く『贈る詩』へ。ゆずと観客とのコール&レスポンスを加えながら、徐々に会場の熱気が強まっていく。
この日の会場は神池の上に浮かんだ能楽殿を正面に、芝生に席を設けた前列、スタンド形式で椅子を並べた後列、そしてその左右に立ち見エリアをはさみ、約1700人がステージと対面。北川は「いつもはアリーナやスタンドと呼ぶんですけど、きょうはどうしよっか。まず前の方は“芝”ね(笑)」とファンとコミュニケーションをとり、岩沢厚治も「後ろは“増設”で!」と笑顔。2人から向かって右側を“芝立ち”、左側を“砂利立ち”と命名(?)し、「みんな元気ですかー! この呼び方、そのうちしっくりくるのかね。後半忘れてたらすみませんね(笑)」とはにかみ、ギターをセッティング。
本公演に向けた前夜祭ということで、一般的なライブであれば本公演のセットリストをもとにライブを組み立てるのが基本だが、ここでも良い意味で僕たちの期待を裏切ってくれる。「きょうはせっかくなので、横浜スタジアムではやらない曲を用意してまいりました」(北川)と、岩沢厚治のノスタルジーなハープ演奏から幕を開ける『からっぽ』、そして「この曲も、きょうにピッタリだと思う」と『雨と泪』を続けて披露。さらに「弾き語りでここまで見せたい」(北川)というMCから、躍動感あふれるイントロ導入で『シシカバブー』へ。北川の演奏するカズーとギターによるエフェクト・ペダルによって、2人だけの演奏範疇をさらに広げた“ネオ・弾き語り”とも言うべきパフォーマンスに、会場の1700人は同等の熱量で呼応した。

 会場が一体となった『友達の唄』で一旦弾き語りパートを締めた2人は、佐藤和哉を中心としたバンドメンバー演奏によるインストナンバーを挟み、青を基調とした衣装に着替え再びステージに。能舞台の雰囲気、静けさ漂うステージに完全にハマる『雨のち晴レルヤ』演奏後、北川がマイクを握る。
「今回は前夜祭であるんですけども、ここは神聖な神社という場所ですし、なにかいつもと違ったことができないかなと思いまして。タイトルにもあります“にほんのうた”。せっかくなので、カバー曲を何曲かやらせてもらいたいと思います」と、繊細に響くピアノの音色から、一青窈の『ハナミズキ』を披露。しっとりと聴かせるコーラスワークから一転、続いてJITTERIN'JINNが原曲で、後にWhiteberryなど多数のアーティストがカバーした『夏祭り』、そして、ゆずとしてはライブやテレビ番組でも歌唱経験のある、中島みゆきの『時代』を演奏。前夜祭ならではのスペシャルな内容に、観客は驚きながらも喜びと嬉しさに満ちた表情で2人を見つめていた。

温かい歓声を浴びながら北川は「いま演奏した曲たちのように、僕らの曲もこうしてずっと残ってくれたらいいななんて思っていつも曲をつくっております。デビューして18年経ったんだけど、少しは、何曲かは、そんな曲を残せたかな」と素直な気持ちを吐露。「次は、デビュー間もない頃から歌っていた夏の曲をお届けしたいと思います」と、『センチメンタル』を演奏。すっかり日は落ち、蝉の声が連鎖する夜に、夏の終わりを予感させる歌詞とは裏腹に、“ゆずの夏がはじまった”と、会場にいた全員が感じたに違いない。
センチメンタルに浸った空気を開放させるかのように、ここからは『陽はまた昇る』『少年』『夏色』とライブ定番曲をたたみかけるように披露。芝、増設エリアの観客も総立ちとなり、本舞台から前方に移動した北川の「雨も止んだし、もっとやらないわけにはいかないだろ!」という煽りに応じ、各々がタオルを振り、拳を上げた。
「今年の夏はゆず一色で、どうか過ごしていただければと思います」(北川)と『またあえる日まで』が演奏され、本編が終了。情緒的な『夏祭り』で再びステージに立ち、いよいよライブも終幕へ。
「ここは、神社ですね。神社というのは、祈りや願いを捧げる場所だと思います。僕たちはやはり、歌に祈りを込めて歌いたいと思います。みなさんの夏が——いや、これからの日々が、素晴らしいものになりますように、願いと祈りを込めて、最後の曲を歌いたい」(北川)
まるで祈るように歌われた『栄光の架橋』は、ファンひとりひとり——会場にいた人はもちろん、来られなかった人たちに対しても——に向けられた、あす以降の毎日を幸福に過ごしていくための“歌の祈り”のように聴こえた。そしてゆずにとっては、8月15日・16日に幕を開ける横浜スタジアム公演へ繋がる、大きな架け橋となるパフォーマンスだった。

<セットリスト>
1. 3カウント
2. 贈る詩
3. からっぽ
4. 雨と泪
5. シシカバブー
6. 友達の唄
7. 誓いの空 inst(篠笛・佐藤和哉楽曲/バンドメンバー演奏)
8. 雨のち晴レルヤ
9. ハナミズキ(一青窈カバー)
10. 夏祭り(JITTERIN'JINN/Whiteberryカバー)
11. 時代(中島みゆきカバー)
12. センチメンタル
13. 陽はまた昇る
14. 少年
15. 夏色
16. またあえる日まで
En1. 夏祭り
En2. 栄光の架橋

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